QuizBowlという競技について

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司会:第3問。この作家の晩年の作品『不思議な少年』は死後に出版された。ミシシッピ川の水先案内人として働いた経験は――

(Aチームの選手がボタンを押す)

A1:マーク・トウェイン。

司会:正解。パワーで15点獲得。ではAチームにボーナスです。テーマは「19世紀のアメリカ文学」。第1問、白鯨モービィ・ディックに片脚を奪われたエイハブ船長の復讐を描いた小説の作者は?

A2:(小声で)メルヴィルだよな?

A3:(頷く)

A1:ハーマン・メルヴィル。

司会:正解。10点獲得。ボーナスの第2問、。同時代のニューイングランドを舞台に、胸に緋色の「A」の字を付けられた女性ヘスター・プリンを描いた『緋文字』の作者は? (以下中略)

司会:――では第4問。この人物が起草した文書は、当初の草稿にあった奴隷貿易への非難が――

(Bチームの選手がボタンを押す)

B1:トマス・ペイン。

司会:不正解です。Aチームのために続けます。――非難が削除された上で採択された。ヴァージニア州出身のこの人物は、第3代大統領として在任中にルイジアナ買収を行った――この人物は誰か。

A3:トマス・ジェファーソン。

司会:正解。10点。Aチームにボーナスです。

これはあるクイズ大会の一場面である。

ただし日本の競技クイズに慣れている人ほど途中で何度か引っかかるはずだ。同じ早押し正解なのに15点だったり10点だったりする。早押しで正解した直後にチーム内で相談が始まる。誤答した相手のあとで残りの問題文を聞いてから答えられる。これはどんな大会だろう? QuizBowlだ。

1. QuizBowlは2チームで試合をする

QuizBowlはアメリカとカナダを中心に行われているクイズ競技だ。出題は文学・歴史・科学・芸術といった学問分野が中心だ。形式によっては時事やスポーツやポップカルチャーも含まれる。

日本の競技クイズと大きく違うのは試合の単位だ。QuizBowlは基本的に4人対4人のチーム戦で常に2チームが直接対決する。

大人数が同じ場で解答権を争いポイントの積み上げや勝ち抜けで順位を決める日本の形式に対し、QuizBowlでは1試合ごとにAチームとBチームの勝敗がつく。コンテストではなくトーナメントなのだ。

2. トスアップは長い早押し問題

冒頭の場面でボタンの押し合いをしていたのが早押し問題の「トスアップ」だ。

QuizBowlでまず目につくのはその問題文の長さと構造だ。1問が数文から段落ひとつぶんほどあり、しかもセンテンスがひと繋がりではない。日本の短文早押しに慣れていると戸惑うに違いない。

ひとつ例を見てみよう。

この作家の遺作『海流のなかの島々』は、死後に妻の手で出版された。スペイン内戦を描いた小説では(*)橋の爆破を命じられたロバート・ジョーダンがゲリラ部隊と行動を共にする。キューバの老漁師がカジキとの死闘を繰り広げる中編『老人と海』、この作家は誰か。(答:ヘミングウェイ)

問題文は難しい手がかりから始まる。そこから少しずつ易しい手がかりへ下りていく。この作りはピラミッド構造と呼ばれる。文中の「(*)」はパワーと呼ばれる得点に関わる印だが、あとで改めて説明する。

3. ボーナスではチームで相談する

さて、冒頭で選手たちが小声で相談していた場面があっただろう。あれがボーナス問題だ。

トスアップに正解するとそのチームだけがボーナスに挑戦できる。ボーナスはたいてい共通テーマに沿った3問セットで、これは早押しではない。チームは制限時間内に相談して最後に代表者が口頭で答える。

例えば冒頭の例のようにテーマを先に宣言して(例:「19世紀アメリカ文学」)からそれに沿った問題を3つ出していくということ。これは「ヘミングウェイ => 19世紀アメリカ文学」のようにトスアップの問題に関係したテーマになることもあるし、「ヘミングウェイ => ヘミングウェイの周辺知識」のように答えがテーマになることもある。

トスアップとボーナス、QuizBowlの試合はこの二種類の問題を繰り返して進む。そのため「誰よりも早く押す人」だけが強い選手になるわけではない。トスアップでは前に出られなくても、ボーナスで確実に知識を出せる選手やそれぞれが詳しい守備範囲を持っていることが重要となる。まさにチーム戦なのだ。

4. 早く押すと15点/早まるとマイナス5点

冒頭の場面ではマーク・トウェインの正解は15点だった。しかしジェファーソンの正解は10点。この違いについて説明しよう。

まずトスアップの基本点は10点だ。だがここには追加点と減点が加わる。追加点にあたるのが「パワー」だ。問題文中に置かれた「(*)」より前で正解すると、通常の10点ではなく15点が与えられる。先ほどのヘミングウェイの例でいえば「橋の爆破を命じられたロバート・ジョーダン」という手がかりより前で押して正解できればパワーとなる。

冒頭でA1のマーク・トウェインが15点だったのは、このパワーで正解したからだ。そして前述の通り誤答にはペナルティもある。問読みが終わる前に押して誤答すると「ネグ」となり、マイナス5点。その問題の解答権は相手チームだけに移る。

このあとは早押しではなくなる。司会は問題文を最後まで読む。相手チームは聞き終えてから答えればよい。冒頭の第4問で、B1の誤答後に司会が「Aチームのために続けます」と問読みを再開したのはこのため。

5. 1問はこう進む

ここまでの流れを1問分にまとめると次のようになる。

トスアップ1問の流れのフローチャート

まずトスアップの問読みが始まる。どちらかの選手が押した時点で問読みは止まる。正解ならそのチームがボーナス3問へ進む。ボーナスで点を積み上げたら次のトスアップに移る。

途中で誤答すればネグとしてマイナス5点。問題の残りは相手チームが最後まで聞いて答える。誰も押さないまま問読みが終わった場合は、一定の猶予のあとでその問題は流れ、ボーナスは出されない。

これを繰り返して規定時間切れになるか、あるいは問題を使い切った時点で得点の多いほうが勝利チームとなる。

6. NAQTとACF

QuizBowlにはいくつかの運営団体がある。団体ごとにルールや出題傾向が異なる。代表的なのがNAQTとACFだ。

NAQTの試合は時間制で進む。パワーも採用している。そのぶんテンポは速い。出題範囲には時事やスポーツも入る。

ACFにはパワーがない。試合は決められた問題セットを最後まで消化する形で進む。出題はより学術寄りで、じっくり知識を競う色合いが強い。

同じQuizBowlでもNAQTとACFでは試合の感触が違う。NAQTでは時間制とパワーによって、早く押すことが得点に出やすい。ACFではパワーを置かず、学問寄りの問題を最後まで戦う。

以上がQuizBowlの骨格だ。冒頭の一場面がもう奇妙に見えないなら、この解説の役目は終わりだ。あとは実際の試合を観てみてほしい。NAQTの公式YouTubeチャンネルには全国大会の映像があり、「NAQT ICT final」(大学王座決定戦)や「HSNCT final」(高校全国大会)で検索すれば決勝の実況が見つかる。英語が不安でも自動翻訳字幕で十分追えるだろう。Tossup one!

なお、本文中の用語の英語表記や関連語はQuizbowl 英語用語集にまとめている。